「ちょっと、シリウスくさい。はなれて」


おれがちょん、とあいつの胸板を押すと__ああ、やっぱり。予想通りの怪訝そうな顔をされる。なんだよ、お前だって煙草だろうって額に口づけ。やわらかい感触が皮膚を通して伝わった。


「だめ。やだよ」
「はあ?いつもはすげー喜ぶのにおかしいな。…せっかく今日はの好きな銘柄のにしてんのに」
「あ、だから毎回においちがうの。ふうん」
「そうさ。……知らなかったか?俺は恋愛に対しては尽くすタイプでね」
「うそこけ、ぜったい貢がせてるだろ(くすくす)」


なんだ、お前は俺を信じられないのかとシリウスは言うけれど、うん、ごめんね信じられないわ。(ほら、おれって薄情者だから)。髪をなでられて思わず目をつぶる。その仕草があんまりにも自然だから、「あ、こいつ女慣れしてるな」って思った。正確にはおれに対して?かもしれないけど。


「やっぱり嫌じゃないじゃねえか」
「いやだ。なんかお前おんなくさいんだ」
「…あ、そっち?」
「うん」
「なんだ、、お前やきもちでも焼いてるのか」
「んー、どうだろ。わかんない」


おれの返事を都合良く解釈したらしく、シリウスがだらんと寄りかかってくる。すんすんと女物の香水がきつーく鼻についた。もう何種類もの香りが混ざり合ってるって感じ。なあに、お前今日だけで何人の女の子と遊んできたわけ。けたけた笑う。


「なに笑ってるんだよ」
「笑ってないし。ばかだねえ、シリウスも」
、お前なんか酔ってる?言ってることとやってること矛盾してるぞ」
「そう?…でもシリウスのにおいが凄くて酔ったかもしれない。まあ正確に言えばシリウスをとりまく女の子たち、ってとこだけどね」


あまったるい香水と、ちょっぴり苦い煙草の香り。それらが保つ絶妙なバランスに、頭がくらくらする。身体中がシリウスにおかされてるような感覚。窓を開けて新鮮な酸素が欲しい。夏から秋のはじめに吹いてくやわらかい風。きっと気持ちがいいと思う。……でも、そうしない。
そこまでにおうか、とシリウス。もちろんおれはうんと頷く。


「…お前はこういうときばっか素直だよな」
「気のせい、気のせい。…あ、」
「? どうした」
「なんでもない、ただ言ってみただけ」
「…はあ?」


なんだお前、意味分かんねえ、とシリウスがごつっと小突く。いたい!。そしておれの悲鳴。2人してなんとも言えない睨み笑い(と言うのが1番しっくりくるな、うん)を交わして取っ組み合う。まるでいぬのけんかだ。決して相手に致命的な傷を負わせないよう、手加減しての甘噛み合戦。愛情表現?そんなすてきなものじゃない。強いて言うなら、ただのじゃれあい。


「やったな、しりうす!」
「何言ってんだ、ただのスキンシップだろう、あんなの」
「お前のは無駄にいたいんだったら」
「それはがひよわだからさ」
「なにそれ。ちょっと聞き捨てならないね、……わっ!」


気づけばもう腕の中。いっぱい、いっぱいにシリウスのにおい。(やっぱ、くさ……)。

























100910