わたしの、うしろの席の花井くん。まだまだ好きとは未確定、けど、最近ちょっと気になる男の子。休み時間におにぎりをかきこむ姿とか、プリントを受け取る際に「はいよ」とか返事してくれちゃうところとか。なんというか、そういうところがちょっといいなあ、なんて思ってしまったり(いやこれが恋というものなのか?)。まあ、どちらにしろ、つらいっつーことで。うう。机にだらりととろけるわたし。


「? どしたのおなか痛い?」


いや、そうじゃあなくてね……!不思議そうに顔を覗きこむ水谷くんは、蒸しパンをひとかけ口につめた。あまいかおりに喉が鳴る。腹が鳴く。きゅう、というなんとも間の抜けた音に、水谷くんはあははと笑った。「なあんだ、そっちね」。そうしてまた一口。わたしに分ける気はさらさらないらしかった。


「いや、別にいらないけど!」
「まずにはあげないもーん」
「(ち、ちくしょう……!)」


じと目で睨みつけてやる。もちろん彼は気づかない、気づこうとしない。わたしはフンと鼻をならしてそっぽを向いた。(そのときにちゃっかり後ろの席も確認した)。さっき教室の外に出て行くのを見かけたから、もう5分は戻らないのだろうな、なんて思う。


「ねえ聞いてよー」
「あん?(考えごとしてた)」
「エッちょお、なに、怒ってる?!」
「あ いや、ぼんやりしてただけ……。怒ってないよ」
「そ、そお?」


ならいいんだけどさ……!そのままわたしの机の前にまわり込み、うーん、と頭をひねる。どしたの?と少しだけフランクに聞き返すと、「ちょっとね、」なんてあいまいな言葉を返されて。


「なによ自分から言いはじめたのに、気になるじゃん」
「……ええー?」
「もったいぶる気ね」
「ちが ちがうよ!(ええと)、あの……ちょっと気になる子がいて」
「! ほほう」
「でもその子には好きかもしんないって子がいて」
「片思いなんだ」
「そ。……俺、いま青春してんの」


そのまで言い切って、水谷くんはへへへと笑った。ちょっと恥ずかしかったのだと思う。わたしはその相手を知らない。しらないけれど、まあ、それでもいいと思った(だってわたしが好きなのは、)。寄りかかる椅子とたれる髪の毛。いくせんものそれらの神経を通じて、花井くんの席に触れる。


「水谷くん」
「うん?」
「……恋ってつらいね」


そう、だね。一瞬きょとんとした彼は少しさびしそうな顔をした。どうせだったらさっきみたいな照れくさい笑顔か、もしくはいつもみたいにあははと笑い飛ばしてくれたらよかったのに(そしたらわたしも楽になれたのに)。やっぱり、恋ってつらいね。




















110219