やわらかな風が頬をなで、私はそのまま背もたれに身体をあずける。キイイと鳴くその椅子は彼の勉強机のものだった。そのままくるり、はんかいてん。そこにはテスト勉強のためにと持ちよった勉強道具だとか元希の野球雑誌だとかはたまたえろ本だったりとか。……ごめん撤回、それは見当たらないみたい。
まあ、そんな中に大きな塊があるわけです。ふかふかふとんの中気持ちよさそうにねむっている彼が。
「(くすくす)こうして見てるとなんかかわいいなあ」
返事らしい返事はない。そりゃあそうだ、相手はねてるもの。私はちょっぴりほほえんで、ばーか、と。ひとことだけ言ってまたノートに向かう。さっぱりの数式。2人で昼寝をしているときと変わらない謎の迷宮をなぞってゆく。ああ、これなら、(もうちょっと眠っていればよかったなあ)。
それから1時間もたたないうちに、うしろの方で声がした。声っていうか音みたいな感じ。でもその発生源はまるわかりだから私はちいさく名前を呼んだ。はるな。
「……ふ、」
彼が寝がえりをうつ。窓側から部屋側へ。数時間前でいうと壁側からわたしの寝ていた側へ、ということだ。そのままさかさかと動かされる手。うん?どうしたの。なんだかわけの分からない彼の行動を不審におもいつつ、顔をちかづけてのぞきこむ。
「はるな、どしたの」
「……うん、」
「おお?(ねぼけてるのか)」
そのまま彼にひっぱられ、ふとんの中にひきこまれる。ちょうど勉強もあきていたころだったので抵抗はしなかった。ただただされるがまま、おとなしい私。そんな様子に満足したらしい元希は「ん、」と短くうなずいてそのままぱたり。気持ちのよさそうな寝息だけが耳に届いた。なあんだ、あの手は、
私をさがしていたんだ
(ごめんね元希)(いつもかっこいいきみに今日だけはかわいいといわせて)