わたしの好きな人には、おんなじように好きな人がいます。彼の好きな女の子はわたしの友だちで、幼なじみで親友で。とってもかわいいかわいい女の子。ふわふわ、にこにこ、こちらにないたくさんのお飾りをたくさんたくさん持っているのです。





「はあ、……これじゃあ勝ち目ないよなあ」


ぽつりとこぼれた言葉は意外と響き、それから夕焼けにそまる教室のあかにしずかに溶ける。おっと失礼、センチメタルな気分なもんで。それかららしくないなあ、なんて思いつつ、らくがきだらけの机にすわる。……水谷くんの。自分すこし変態くさい?いいよだれも見てないし。

そう、ちょっとだけ気を抜いたのがまちがいでした。


「(ガタタッ)……あれ、ちゃん……?」
「えっ ええ?!水谷く、(なぜいる?!)」
「こんなところでなあにしてんのー」
「いっいや、なにしてるのはあんたの方でしょ……!なに、その顔、」
「あーんちゃん容赦ない、こういうときは見ないふりしてよ」


そういって水谷くんはふにゃふにゃ笑う。泣きながら笑ってるってどういうことだ、ええ?わたしは軽く彼をにらみつけつつ、となりの席の椅子をひいてやる。「なんというか、……まあ座れば?」。ああもう、もうすこし言葉えらんで自分。これじゃあかわいげのかけらもない。なんて、ちょっぴり後悔してしまった。もう。


「……ええと、なにか嫌なことでもあった?」
「えへへ あべにいじめれられちゃって、」
「(はあ?)なんでうそつくの、わかるよ、だから正直に、」
「しのーかに振られちゃた」


うん?あまりにも予想外すぎる台詞に、おもわず思考がフリーズした。ごめん、もう一回いってもらえる?ほんとはそう言いたかったけど、ええと、つらいよね。なんて野暮なことを聞いてしまったのだろうとわたしは自分を恨むしかなかった。どう返していいかなんてわからない。けど、すごくいたたまれない気持ちになって、どうしようもなく、わたしは床に視線を落とした。


「ええー?ちょっとやめてよ、黙られるとよけいつらいじゃん、はは」
「……ごめん?」
「こんどは疑問形かい。まあちゃんらしいけどー」
「なんというか、かける言葉がないというか、」
「うん、俺も。もうどーしていいか分かんないや」
「……そっか」
「うん」
「……」
「はー……好きだったんだけどなあ、」


いつもうるさいくらいの彼の声はすごく静かで。なんだか、その沈黙がすごく痛々しかった。わたしの眼はあいかわらず床を見つめている。どうすることもできない、なんてわたしもいっしょだった。やっぱり水谷くんは千代ちゃんが好きだった。それってつまりわたしも失恋したってことじゃないか。


「……(なんか、やだ、わたしが泣きそう)」
「うん?なんでちゃんが泣いてるのさ」
「ないて……、ないっ、ての」
「(くすくす)それ、俺のためだったらうれしいなあ」


水谷くんはうすくわらい、先日衣替えしたばかりのYシャツの袖でわたしの頬をなでる(ここでやさしいなんて思ったら負けだ)。しらない。けど、いつのまにか泣いていた。でもそれは彼のためじゃなく自分のため、わたしは自分がくやしくてくやしくて泣いているのだった。……なんて、嫌なやつ。


「ごめん、ごめんね」
ちゃんがあやまるとか、意味わかんないって」
「でもなんかわたし、」
「いいから、ほら笑ってよ、そっちのがつらくないよ」
「うん、……ん、」
「こうしてればそのうち楽しくなるから、ね?」


うんうんとうなずくことしかできないわたしは、やっと彼の顔を見た。いつものような頼りない笑顔。色素のうすいまつ毛は濡れて、いたい。いたい、痛い痛い痛い痛い痛い、のに、なんで、そうまでして、(少年はそれでも笑うのか




















101003