どしゃぶりの雨。「本日は天気も良く、洗濯物もよく乾くことでしょう」。……天気予報のお姉さんはいつだってうそつきだ。信じたわたしがばかでした。あいにくそんなばか正直なおかげでわたしはご丁寧にパジャマやシーツ、お気に入りのぬいぐるみまで干してきたというのに。きいい。

パシャパシャと音がする。わたしは今さっきバスを乗り過ごしたばかりだったので(まあ歩いても帰れる距離だけど)、きっと雨宿りをしに来た人だろう。ああ、かわいそうに。その人も傘をわすれたのね。同じ境遇の誰かの顔がすこし気になる。バス停から外を見渡した。うん?ええと、あの赤髪は、


「はる、や……?」
「!! あんた、こんなとこでなにしてんだよ」
「あはは、アー……雨宿り」


チッ。そんな舌打ちが聞こえる。それからわたしが身をよけると同時に、晴矢がバス停に駆け込んできた。うわ、びしゃびしゃじゃないの、あなた。思わず出てしまった声にすかさず「うるせーよ」と晴矢。頭のチューリップはしょんぼりしてるというのに、口の悪さは相変わらずだ。ふん。


、あんた傘は?」
「持ってない。ついでに洗濯物が危険な予感」
「ああそう。……で、次のバスは(ええと)」
「1時間後」
「は?!」
「正確にいえば54分後、かなあ」
「……くそ」


晴矢はいらいらしてるみたいだった。それからエナメルバッグをがさがさと漁って(こういうところが妙に男らしい)(思わず笑ったらはあ?という顔をされてしまった)、タオルを2枚取りだした。豪快に自分のあたまを拭きつつ「ん、」とつきだす。


「え かしてくれるの?」
「俺はやさしい男だからな」
「なにそれ、あほくさーっ(くすくす)」
「んだよ文句があるなら貸さなくたっていいんだぜ」
「ないですないです、……うん、ありがと」


のろのろとタオルを受け取ろうとするわたしに晴矢はさっさとタオルを押しつけて、すぐさま向こうを向いてしまった。?、なんなの。まあいいけどね。わたしはまず顔についた水滴を吸い取り、それからわしゃわしゃと髪を乾かす。ほんのり、晴矢のにおいが鼻をついた。くやしい、わりといいにおいだ。


「あんたさあ……」
「うん?」
「女なんだからもうちょっと丁寧に拭けよな。俺が乾かしてるんじゃないんだから」
「いいよー、こっちのが楽だし」
「杏だってもうちょっとかわいらしくするぞ……」
「そりゃあ杏ちゃんはね。晴矢の前ではかわいくいたいんだよ」
「……イミワカンネ」


うそつき。晴矢自身だって杏ちゃんが晴矢のこと好きなことくらいしってるくせに。……ほんと、ずるいやつだと思う。でも、言わない。女の子の秘密をばらすなんてこと、わたしは絶対しないんだ。
ごそごそをまた晴矢が鞄を漁りはじめた。うん?出てきたのは携帯電話。晴矢らしい、真っ赤な、かっこいいやつ。


「メール?」
「ん、たしか風介のやつまだ学校にいたから傘頼もうと思って」
「なるほどねー。あっ待って、やっぱわたしがする」
「はあ?なんであんたが」
「風介わたしのこと好きだからね、きっと来てくれる」
「うわ、すげえ自信。なんなの」
「やっ分からないけどたぶん?みたいな。へへ、それに晴矢に頼まれても風介こなさそうでしょ」
「……確かに」


ね、そうでしょう?わたしはいそいそと鞄から携帯を取り出す。電池はのこり1こ。まあなんとかなるんじゃない?お得意の両手打ちでさあ送信。


「俺、のそういうとこ嫌いだね」
「なにが」
「人の気持ちしってて利用するところ」
「(自分だって人のこと言えないくせに)いいでしょ、わたしも風介すきだし」
「はあ?!」
「そういう意味じゃなくて!……晴矢も風介も、みんな、同じくらい好きだよってこと」
「……そりゃどーも」

フイと彼は顔をそむけたけれど、髪の間から見える耳はちょっと赤い。な、なんでそんなかわいい反応するの、晴矢のくせに……!なんだかこっちも恥ずかしくなってきて、わたしはぎゅっと携帯をにぎりしめた。


「(うー……)ふえくしゅ、」
「おいおい平気かあんた」
「ん……ちょっとさむい、かも」


晴矢は一瞬自分の上着を着せようとして、やめた。したたってる。雨を十分に吸い込んでる。だから、手をとめた。「アー……みんなに言うなよ、これ」。なにを?そう聞きかえそうとしたわたしに、


「ええと、ちょっと、はるや?(ぎ、ぎゅってされてる……!)」
「るせーしゃべんなブス」
「だれがブスだチューリップ」
「ったく、あんた、この晴矢さまのやさしさが分かんねーのかよ」
「う、……ありがとうございます、ん、」
「理解力。もっと養っとけばか」


晴矢のにおいがする。さっきのタオルとは比べ物にならないくらいの、近いきょりで。ぎゅうぎゅうと押しつけられる彼の胸の音がすごく聞こえて、それがずっと耳に残って。(うう、あたま、おかしくなりそ……!)。でも、なんでか、すこし心地よかった。知らないうちにわたしも彼の背中に手をまわしていた。こういう、こんな、こんな柄じゃないのに、あああもう、


「(!!)(せなか、手、まわされた?!)」
「ん……はるや、あったけー」
「もうちょっと可愛げのあるコメントはできないのかあんた」
「ゆるして?」
「くそ、」
「んふふ、ありがと」






アロマオイル



騙された



ん、晴矢のにおいがする。すんすんと鼻をつく。風介ごめんね、もうすこし来るの待っててくれる?






からの連絡を受け、私が学校を出て数分後、雨は小雨へと変わった。……なんてタイミングの悪い。雲の間からはちらほらと陽の光が漏れている。無駄足か。足を止めかけ、やめた。このままと帰ろう。

そして次にバス停の中をのぞくいたそこで、なんてことだ。ああまったく、一体どういうことなの、










































100813