さんさんと照らす太陽はじりじりと身を焼いて、その影が一番みじかくなるころに。かける、かける、かける、あのグラウンド。選手たちの汗をたらして。
わたしは声をはりあげる。がんばれ、がんばれ、おおきな声で。わわ、あれ、となりの秋ちゃんたちもおんなじように顔をまっかにしてる。
「ふいー、今日もいちだんと暑いねえ」
「そうだね、もう夏だものね。……ちゃんなにそれ」
「うん?ええとうちわだけど」
「……呆れた。みんながこんな中で走り回ってるっていうのに、マネージャーのあなたが涼しんでみてるなんて」
「なっちゃんだってそうだもん」
……雷門さん。秋ちゃんの、少しだけトーンの下がった声。パラソルの下で優雅に座ってたなっちゃんは一瞬びくっとしてからすぐにわたしの方を見た。ああっ、なっちゃん。そんな逆恨みもいいとこですよ……!?わたしは笑って誤魔化しつつうちわを隠す。つつ、つ。うちわを止めて数分もたたないうちに、額から汗が流れた。
「それにしても、よくこんなくそ暑いなかあんなに動けるよなあ、みんな」
「先輩、口がわるいです!」
「おっと失礼」
「ふふ、確かにね」
「でしょ?吹雪とかどーなってんのあいつ。マフラーとか……」
「あっ吹雪くん!!!!」
秋ちゃんが急に吹雪の名前を呼んだ。そのときのわたしは、なんでか空をあおいでいて(ふてくされていたわけではないんだよ!)、彼女のそれに身体がおおきくはねた。ええと、どういうことだ。くるりと旋回、そのさきに。そのさきには例の吹雪がすったおれていて、ああもう言わんこっちゃない、わたしはダッシュするはめになる。
「だ、大丈夫吹雪くん?!」
「ええと、こういうときには、水?まくら?救急車?!」
「はーいみんな落ちつこうね。……ええと吹雪、へーきか、意識ある?」
「えへへへ ちょっとぼーっとしてて……」
「あほ。顔真っ赤、体温もけっこう高そう。……熱中症だろ」
「えへ、へ」
相変わらず吹雪のはりつけたような笑みは消えなくて。わたしはまあそのへんにいた綱海に頼んで吹雪を木陰に運んでもらった。一応こわいので秋ちゃんには先生呼んでもらったし(休み中だからいるかは分かんないけどさ)、なんとかなるだろう。ガラガラとなる氷は音だけでもすずしい感じだ。「ん、つめたくない?」。わたしの問いかけに吹雪は力なくほほえんだ。ごめんね。
「なんであやまるの、意味わかんない」
「迷惑、かけちゃったから」
「べつにいーよ、気にしないで。こんなのもマネージャーの仕事のうちだし」
「ふふ。そっか、ありがと」
「ん」
ここで、会話が途切れた。今ここにいるのはわたしと吹雪2人だけで、他に会話をつないでくれる人はいない。どちらにしろ安静に寝かせてあげた方がいいからこれくらいの方がいいのかもしれない。そうは思う、でも。なんだか居心地がわるくて、手持ち無沙汰なわたしはさっきまで持っていたうちわをとりだした。ひらひらと彼をあおぐ。
「すずしい?」
「うん、すずしいよ」
「よし。……ねえ、なんで吹雪はいつもマフラーしてるの?あつくないの」
「あついよ。でもさ、ほら、アツヤの形見だから離れたくなくて」
「ふうん?」
「うん?どうかした?」
「どうもしてないよ。でももうちょっと気をつけてね、熱中症なんかでしんだら弟?くんもかなしむよ」
……そうだね。そう答える吹雪の目はどこかさびしそうだった。無意識なのかはいまいち分からないけど、ぎゅっとマフラーをにぎりしめていた。弟くんを知らないわたしには理解できないけど、きっと吹雪自身にもどうにもならない理由があるんだろう。「……ん、」。氷が気持ちいのかな、吹雪が声を漏らした。……しょうがないなあ、
「えっ ど、どこ行くのちゃん」
「ちょっと用事!」
「ええと」
「いーから吹雪はおとなしく寝てる!」
そうだ、たしか部室の冷蔵庫に冷えぴたが入ってた。あんまり意味はないかもしれないけど、ちょっとは吹雪もすずしくなるよね、うんきっとそう。
かける、かける、かけるわたし。たいした距離もはしってないのに、この首筋をながれる汗はたらたらとあとを絶たない。あれ、なんで。いつからわたし、こんなに一生懸命部活をしてるんだろ。(サッカーなんて、すぐ飽きると思ってたのに)。