きらきらとひかる夜空のお星さまは彼ににている。どこが、と聞かれるとそれは表現しにくいけれど、その、なんというか。少なくとも私はそう感じていた。
昔、そのことをウルビダに相談したことがあった。でも彼女、「お前はヒロトをなにかどえらいものと勘違いしてるんじゃないのか」、だなんて。あのときは怪訝そうな顔をされたっけ。(まあ確かに私もすこし思ったけどさ)(なあんて)


「なにしてるんだい、
「わっ ……ヒロト」
「ふふ、おどろいた?はいこれ、ぱっきんアイス。姉さんがみんなにって」
「みんなに? え、私もいいのかなー……」
「変なところで気を使うなよ、十分うちに入りびたってるくせに」
「はは そっかあ」


ぱっきん!とその名の通りのいい音をたててヒロトがわたしにアイスをわたす。ひゃっつめたい!じんじんと指先がひえていく。ああでも蒸し暑いこの時間帯にはちょうどいいのかも、そんなことを思いつつ隣にきた彼にすこし席をゆずってあげた。ぽすんとやわらかな音。そしてまた幾分かしずむソファ。


「……む?あれ、風介たちは?」
「あああの2人。晴矢も風介も出かけてくるって」
「あはは ヒロト1人はぶられてやんの」
「ちがうよ、もうはー……なんでそうすぐ意地悪なこと言うかな」


別にいじわるなんてしてませーん?私がくるりと切り返す。ああはいはい、とヒロト。呆れたようにパタパタとうちわを仰ぐ。(あっちょっと!それ私が使ってたやつ!)。かえしてよう、足をしむけて私は応戦。行儀がわるい?そんなの知りません 半ばじゃれあいというか遊びというか、へんな具合にムキになって私たちはギシギシとソファのスプリングを鳴かせた。大丈夫、大丈夫。きっとこのソファはこわれない。


「ねえこら、足じゃまだって」
「んーラムネ飲みたいなあ」
「話きけよ……(はあ)。 あっそいえば今日さ」
「うん?」
「さっき女の子たちが話してたんだけどお祭りなんだって、ほら、円堂くんのとこの」
「へーえ あいかわらず円堂くん好きですこと」
「えっなに、今のおこるとこだった?!」


くすくすくす!こういうヒロトのこまった顔をみるのがすき。ええと、へんな意味ではなくってことなんだけど。ヒロトのおとうさん?のもとでサッカーしてたときは、正直、ちょっとこわかったし……。今はいい意味で親近感がわけるなあ、私はもういちど笑う。


「今度は急に笑いだすの?意味わかんない……」
「はいはい」
「ったく返事までして動かないのか」
「いいでしょー、ヒロトひんやりとしてるからくっついてて気持ちいいんだよ」
「ええ?それならオレより風介だろ……」
「……(ハッ)」
「……」
「……」
「……」
「……いや冗談だよ?」
「だろうね、まず風介にげるだろうし」


……かちん、なんだと……?ぎろりとヒロトに視線をおくる。すると彼はまた(私のお気に入りの)困ったような笑いをして、「いっしょに行かないかなって」、なんて。えっと、これは(デートのお誘い……?)、


「そ それは2人で、ってこと、ですか……」
「うん(アイス溶けかけてるし……)」
「(……)や、なんというか うーん……」
「うん」
「ちょっとはずかしい、かも」
「うん?」


人の顔色をうかがって、反応をみてはにたにたとするヒロト。ああほんとあんた性格わるいね……!なんて、皮肉のひとつやふたつかましてやりたいのが本音。
くそう、視線をずらした先でなにかが光った。あれは金星?たしか夜のはじめと朝方に見えるようなものだったはず……。そんなことを考えていると「ねえきいてるの」と彼が。


「ごめんきいてなかった」
「はー……、キミってほんとに困ったやつだ」
「はいはい、ありがと」
「意味分かんないよ」


ぐににと鼻先をつままれる。いや、そういうヒロトこそ意味わかんないから……。ふん、と鼻を盛大にならしてするりと離れる。まるで近所でみたあの半野良のねこみたい(私はここで我ながら分かりづらい例えをだしたものだなあと思った)。うん?ねこ、ねこ、さかな……?


「あっそうだヒロト、私ここのお祭りはじめてなんだけど屋台ある?たくさん?」
「……急に喰いついてきたね」
「はは、まあまあいいから」
「うーん わりとけっこうあった気がするけど……。たしか去年は晴矢あたりがきんぎょとってきたかなあ」
「きんぎょ!」
「あ、なにほしいの……」
「うん。かわいーでしょきんぎょ」
「そう……」

なんだ、あそこの水槽で泳いでるのはぜんぶ晴矢がとってきたものだったのか。妙になっとく。あいつ普段はがざつなふりしてけっこう手先は器用だからなあ。風介とはおおちがいだ、なんてずっと前に言ってもめてたっけ、くすくす。


「あとほかには?なんかある?」
「ええとねー……。ああ、ラムネ飲みたいんだっけ?あれもあったよ、確か」
「わわ!それ本当?ええーどうしようかな行こうかな」
「行こうよせっかくなんだから」
「うん、行こうかなー」


そうだ浴衣は?なんて彼にきかれて、自分の家のタンスを思い出す。一段目は靴下や下着とか、二段目はTシャツ、三段目は――― とまあ、そんな具合で。私の記憶が正しければ(いや正しくなくてもだろうけど)、浴衣なんてそんな女の子っぽいものはなかった気がする……。


「甚平じゃだめ……?」
「はは だろうとおもった」
「んな」
「大丈夫、うちに姉さんが昔きてたのがあるよ、貸してあげる」
「えー長け合わないって」
「どうかな。オレこう見えても裁縫も完璧だから」


あっそ。得意げな顔をするヒロトにとげのある言葉をかえす。それから彼は人のはなしになんて見向きもしないで、さっさとだいぶ年季の入った裁縫箱と、紺色のすずしげな浴衣を1着ほど持ち込んだ。(ずいぶんとまあ準備のよろしいころで)。……うん?まって。べつに夏祭りにいくくらい、私服のまんまで十分なんじゃ、


「さあ、長け直すからちゃっちゃと脱いで」
「あほ!!」









ゴーサイン



コンマ0.8秒後、私の拳があなたを襲う。




ねえあのねウルビダ、やっぱり彼は星みたい。あれからずっとヒロトの頭でお星さまがくるくるしてる。「それなら納得できるな」。でしょ?やっぱりね、私もそう思うよ、ねえ星の王子さま?













































100713