(……かぜのつよい日は、きらいだ)。まき起こるかぜにもてあそばれる髪。じぶんのそれにすこし倦怠感を持ちながら、木陰にかくれてページをひらく。そのあとは沈むだけ。この本のストーリーにただただ入り込めばいい。そうして彼女は……彼女 か、のじょ……は……、






「(うわ 寝て、る……?)」

そらが、湿っている。そういえば午後からは雨が降るそうなのだと今朝の天気予報が伝えてきた気がする。そうだ、だから練習は午前だけで終わることになって。それでたまたまこの場所を通ったらが寝てて……。

「参ったなー……」

視線を、からそらへとうつす。さっきより雲があつい。こころなしか風もつよくなってきているような。
、おいと彼女をゆする。返事はない。ただただ気持ちのよさそうな寝息と、時折もれる寝言のようなちいさな声に俺はため息をつくしかなかった。まったく、なんでまたこんなところでお前は。はあ。

「やっぱりこのまま置いてはいけない、よな……」

とりあえず手元にある本を閉じようと、ひらきかけのそれを手に取ろうとした、とき。「む、……うん?」だなんて間の抜けたような声がした。もちろんの。なので俺はそのまま彼女顔をのぞきこみ、おはようと声をかける。さすがにもう起きてもらわないと。ぱちぱちと瞬きが2回。

「……か ぜま、る……?」
「ああ、やっと起きてくれた。こんなところで寝てると風邪ひくぞ」
「う、ごめ……(ふわー)」
「すごい顔」
「うるさい!……む?というかなんで風丸?」
「……たまたま通りかかって」

ふうん、ああそう。はそれだけ言うと、もう一度ふわああとあくびをした。女子のくせになんとも豪快なあくびをするやつだ。俺は彼女がほんとうに起きたかどうか確認し、よいしょとゆっくり立ちあがる。すこしだけ、草のにおいが鼻をくすぐった。5月のわかば、青々としたそのにおい。すこしだけ落ちついた気がした。

「ほら、立てるか?」
「ああ、うん。ありがと」
「あとこれも」

地面にあしをつく彼女に手を貸してあげたあと、つづいて今度は先ほどとった本をかえしてやる。図書館の本だなんてかび臭いだけだろうにどうしてか、はそれを大事そうにかかえた。彼女のいとおしそうな目。題名はその両手にかくれてるせいで読むことはできない。

「本、好きなんだな」
「うん、まあ、わりとね」
「けっこう大切そうにしてるようだけど?」
「へへっさすが風丸。わたしのことはなんでもお見通しなんだ」
「ばーか。そんなこと、あるわけないだろう」
「照れなくてもいいからね」
「照れてない」

ほんと、こういうところがなければもう少しは可愛げがあったのに。へんな詮索癖があるのはのわるいところだ。おまけに彼女ときたら確信犯。であるから、俺がそういう好意を持っていると知っててからかっているのだ。(ああもう、だから!)。

「もう、いいだろう?天気も悪くなってきてるし、そろそろ帰った方がいいんじゃないか」
「ええー」
「(はあ)分かった、帰らなくてもいいから。せめて校内に入ってろ」
「それもいや。なんのために私がここに来てるかわからなくなるよ」
「じゃあどうしろっていう、」
「こういうときは」
「うん?」
「ふつう家まで送ってあげるもんじゃあないの、風丸くん?」

挑発的な目と声とその言葉。こっちの迷惑なんておかまいなし、そんな感じがぷんぷんする。俺にそれを断われと?そんなことできるわけない、できるはず、ないじゃないか。










ジテーション



そうして彼女は眠りにつく。かならず彼がくると信じて眠る。ふかいふかいその森で、2人は出会う運命なのだ。物語のさいごのことば。私にそんなロマンチックな夢なんかはないけれど、ここでなら。ここでなら君の声が聞こえるから。見なくたってわかるよ、一生けんめいがんばる君の姿くらい。