「んでね、それでしのーかったらね!」。今日の文貴はひどく饒舌で(いやいつもよくしゃべてるけど)、ゆるみっぱなしの笑顔をふりまく。あたしはまぁそれをいやぁよかったねー、だなんててきとうに流して話を聞いていた。別に聞きたくなんかなかった。(むしろそこで知らんぷりをしてやればよかったのだ)(嗚呼)。

「? ちょっとったら聞いてんのかよう、俺のはなし」
「えー、あんまり」
「わわっ ひっでえの!」
「あー……うそうそ。ちゃんと聞いてるってば」
「ぜってーうそだよコレェ!」
「(うるせ……)」

となりの阿部がすごく不機嫌そうに顔をゆがめたのであたしはそこで口を閉じる。さわらぬ神にたたりなし。脳裏にひょっこりと出てきたその言葉をかみしめて、再び文貴の聞き手にまわる。……わ、阿部が眉をひそめた。

「だからそこでさ、しのーかったら転んじゃって!」
「ワーッイタソウダネー」
「ね!まあ女の子はちょっぴりドジなくらいがかわいいと思うわけ」
「ナルホドネー」
「いやぁいいね、今の俺!ちょう恋してるって感じ?」

あははとわらう彼にため息。まったく、こっちの気もしらないで勝手なことぬかさないでいただきたい。そもそもなんであたしに言うわけ、もとはと言えば阿部に用があって来てたんじゃなかったの……。(まあその用がのろけ話だったんだろうけど)。

「……阿部、おねがい交代して」
「やなこった」
「! 即答だなんてひどいジャマイカ……」
「だって一回きくとこいつうるせーんだもん。すぐ調子のるからやだよ」
「あたしだってやだっての!」
「え、なに?なんか言った2人とも」
「「うるさいクソレ」」
「ひいい!」

というわけでガクブルとふるえる文貴をとりあえず放置しておくことにする。すこし気になるけど、ここで甘やかしちゃだめだ。また調子にのって……ああだからだめだったら!ふるふると首をふり、内容もわからない古典の教科書を開いて読む(ふりをする)。

……ちゃん……」

そ、そんなかわいい声で名前よんでもだめ、なんだからね……!あたしはぎゅうと古典の教科書を握る手に力をいれる。ぐしゃりという脆い紙の悲鳴。ぜぜぜ全然気にしてなんかないったら、ほんと……ぐぎぎ!

「あ、あの…………?」
「なに」
「その本、上と下が逆だよ……」
「ぎゃーっ本当だあああああ」
「(くすくす)だめだねえ、ドジっ子はー」
「う、うるさい!たまたまなの!」
「ええー?あんまり信じられないなあ」

困ったような声でわらう彼が少しくやしい。というかドジっ子って言われた……!君さっき自分が言ってたこと忘れてたりしてないよね、ああもうちょっとうれしいって思っちゃった、それもくやしい!なにそれ反則!反則だよもう、

「あ そういえばさ、」
「……む?」
「いっつも俺ばっかはなしてるけど、阿部やはどうなの?」
「なにが」
「だからあ、すきな子いないのってはなし」

今、それを聞きますか……君……。いや確かにね、普通にタイミング的には間違ってないけどね……。目線をそらしたわたしに、すかさず文貴が「あーっ自分だけ逃げる気かー!」だなんて口をとがらせる。そんな顔してもだめなもんはだめです。

「えーなんでだよう、けち」
「けちでけっこう!」
「んだよもう……阿部だって気になるよなあ?なあ?」
「(なんでそこで阿部にふる……!)ちょっと、やめ、」
「……別に。気にならないよそんなの」

そもそも言いたくないのに無理やり言わせたりして、なにが楽しいわけ。阿部はしずかに、だけどとても凛とした声でそう言った。おまけに顔は無表情なもので。……こりゃあたしかに文貴がひるむのも分かるなあ。阿部こわいもんなあ。とあたしは一人関心した。まあ、とにかく阿部ありがとう!少し惚れなおした!(まああたしがすきなのは文貴ですけど!)(ごめんね!)

「……そんな言い方しなくたっていいのに(ぶー)」
「ふくれないふくれない。女の子には秘密がいっぱいなの」
「女子は大股おっぴろげて座ったりなんかしません」
「! きづかなか、った……!」
「きゃあウフフってば大胆」
「……あほ」

ああもう、なんたる失敗!はずかしい!もうやだ、こんどからは三角座りですわってやる……。「あー、でもさ」。うん?あたしが一人でそんなことを考えていると、ふいにまた文貴が口をひらく。

ってこんなばかで女の子っぽくないけどさ」
「(ぎろり)」
「(うっ、)……なんでかうちの部では人気あんだよねえ、かわいいし」
「エッなにどゆこと。ちょっとくわしく……」
「うわー切り替えはやいなー(棒読み)」

だから野球部のなかではさあ、と文貴。なんだか説明してくれてるみたいだけどね、あたしが気になるのは語尾の方のことばです……!かわいい何それおいしいの……!

「……とまあ、こんな具合ではさ、」
「おい水谷、こいつ全然聞いてねえぞ」
「……え!ごめん阿部なんか言った?」
「ほらな」
「俺、なんでこの子がこんな好かれてるのか理解できないや……」

気づいたときには、どうしてか文貴がひとり泣きをしていた。まあそんなのいつもの事なので今さら慰めたりはしないけど。それでもなお且つ「ねえ、阿部はどう思う?」だなんて言ったりしているので本当、あたしをばかにしてるの、君……。

「なんで俺にふるんだよ……」
「ええ、だめ?同じ野球部として。まあ栄口とか巣山はふつうにかわいいって言ってるけど、……あ、そうだよ!どっちかと付き合っちゃえばいいじゃん」
「(! ばか!お前、!)」
「はあ?ごめんちょっと言ってる意味が……」
「だーからあ、どっちかと付き合っちゃえば?2人ともいいやつだし、好きだね、うん!どっちものこと好きだってきっと!いや絶対!俺こーゆーのちょう敏感だし保障するよー」

あっそ。ふうん、へえ。君のどこがちょう敏感なんですか……!ちょう鈍感やろうの間違いじゃあないの……。きいい、とあたまに血がのぼる感じがして、あたしはそれをいっきに止める。だってこのままあたしが好きだと彼にいったとして、振られるのは目にみえてるじゃないか。それくらい、分かりますよ、ええ……。(むかつく、けど)。

「あはは、まじでかー。全然しらなかったー」
「ああもうだめだなあ、は。で、どうすんの、付きあ、」
「おい水谷、あっちにいるのしのーかじゃねえの?行けば?」
「え!まじすか!ちょっと俺いく、いってきます」
「おー行って来い」

じゃあ俺ちょっと抜けるねー、ごめんねまたあとで!ひらひらと手をふり、そそくさと駆けていく。あたしも手を振り返した。もう好き勝手にどっかいっちゃえばか文貴。そのまま告白して振られて泣いて帰ってくれば!(ふん!)

「……ふはっ」
「ええ、ちょっとなに、急にどうしたの阿部」
「あいつ騙されてやんの、しのーかなんてあっちにいねえし」
「! 君ってば嘘ついたのね、へえ」
「そんな目でみないでよ、だいたい俺はお前に感謝してほしいくらいなんだから」
「うん?」
「顔。思ってること出すぎ」

阿部があたしの顔をゆびさして、意地のわるそうな目をしてわらった。ええと、それはどういう……いや、まさかそんな、ね……?ハハ……。

「俺が気づいてないとでも?」
「うん、ごめん……その通りですよ、どうせ叶わぬ恋ってやつですよ、うう」
「嘘泣きすんな」
「んな!ちょっとは慰めたりしてよばかー!」
「嫌だね、ちょう鈍感やろう相手にお前も苦しめ



































































「……む。お前もってどういうこと?」
「(はああ、だからお前はいつまでたってもちょう鈍感なんだよ!)(気づけよいい加減!)」
「おいこら阿部、無視すんな」
「……もうしらん。俺はねる」