「、!」
「えーなあに、わたし今テレビ見てるんだけど」
「いいからおいでよ。きっと昼ドラよりも面白いものが見れるよ」
「……いく!」
わたしは液晶画面の前でくんでいた正座をぱっと解いて立ち上げる。「わっ」。しびれた足でくらりと揺れる世界におどろき。そんなようすを見越してか、タイミングよく駆けつけたヒロトが手を貸してくれた。
「いやあ、面目ない」
「まったくだよ。まあ君らしいけど」
「うへへ」
「しょうがないなあ、は」
「はーいすみませんねえ。……で、面白いことって、」
「しっ、しずかに」
うん?彼に制されてわたしは止まる。そのままヒロトはくすりと笑い(これは何かを企んでいる顔だ、とわたしは瞬時に察した)、つないだままの手をやさしく引いていった。こいういうときの彼はたのもしい。ぜったいにこちらの期待を裏切らない。だからわたしは言われたとおり、静かにそのあとをついていった。
「あんまり大きな声をださないように」
「(こくり)」
「そうら、ここをのぞいてみて。しずかにね」
「(こくり)」
ゆっくりと言われた部屋をのぞく。ソファで隠れているせいでよくは分からないけれど、赤と銀の頭がちらりと見える。ええと、まさか?わたしは期待に胸をふくらませ、ヒロトの顔を見る。「さあて、どうだろう?」。そう答える彼はやっぱり笑っていた。
「ねえヒロト、この2人は寝てるの」
「うん。あくまでオレの憶測だけど、喧嘩してそのまま寝ちゃったんじゃないかな」
「(くすくす)あほだなあ」
「ね」
ほんとにあほくさいくらい気持ちよさそうな顔をして寝ている。大いびきをかく晴矢とそのお腹をまくらにして丸まっている風介。いつもけんかしているばかりの2人なのに、めずらしいこともあるんだなあ。わたしはくすりと笑ってしまった。
「こうやって寝てるとかわいいもんだね」
「いつもこれくらいだったら良かったんだけどな」
「あはは、ヒロトがそれを言うんだ?」
「ちょっとそれどういう意味だい」
「んふふ、だって円堂くん?だっけ、その子絡むと性格かわるからさあ」
「否定はしないよ」
ほうら、やっぱりね。わたしがしてやったり、というような顔をすると、彼はおかしいような困ったような。複雑な表情をしてみせた。(あーおもしろい)。
「まあ……そこはほら、ね」
「誤魔化す気満々だなあ」
「はしつこいよ。……あ、これかけてくれる?風邪ひくと困るから」
「わあ、このタオルケットいいにおいがするー」
「こら。君のじゃないって」
ああもうわたしもこのまま一緒に昼寝してやろうかな……!そんなことを思いつつ、ふわりとケットを広げた瞬間、くしゅん!だなんて。風介が猫みたいなくしゃみをした。そのまま風介のに連動するように晴矢がとびあがり、それにおどろいたわたしはバランスを崩して彼の胸にダイブ。「うっ」。晴矢の悲鳴だ。
「あちゃー……」
「まったく君ってやつは……」
「だって晴矢が、」
「(くしゅっ)」
「いやちがう風介が……!」
「あーあオレしらないよ」
「ちょっとヒロトわたしを見捨て、……きゃっ?!」
「う、……」
起き上がろうとしたわたしのそでを風介が急につかんだので(この子ねぼけてる……!)、もう一度晴矢のもとに倒れるわたし。とっさに見たヒロトの顔は愉快そうな笑みをおびていた。薄情者!そんな彼をののしる。
「人の話をきかないにはいい罰だよ」
「ああそんなこと言わないで」
「さあてね。俺は用があるからもう行くから」
「え、そんなあ、」
「(くすくす)じゃあおやすみ、いい夢をね」
イノセント・
(それはまるで無邪気な引力のような、)
グラヴィティ
用事を終えて(というか別に用事なんかなかったんだけど)オレがもどると、部屋にはと晴矢と風介の。3人の寝息が響いているだけだった。雑魚寝というよりはむしろ、犬だとか猫なんかが折り重なって眠っているようなそんな感覚。
「あーあ、せっかく掛けてあげたのに蹴り飛ばしちゃって……」
ぶつぶつ文句をいいつつ、渋々タオルケットをかけ直してやる。そのときに心なしかがふにゃりとほほ笑んだような気がしたけれど、実際のところはよく分からなかった。そんなこと、どちらでも構わないことだ。ただ、ひとつ気になることがあったとすれば、この昼寝にオレも参加すればよかったかな、なんて思う自分自身の気持ちの揺らぎについてだった。