ついこの間まではさびしい枝しかなかった木に、少しずつピンクのつぼみがついて。そうしてゆっくりとそして今では小さなそれが花ひらいている。わたしはそれを手でもてあそびつつ、じゃれるようにリリーの背中に鼻をおしつけた。(チェリーブロッサムの、におい!)

「きゃ!……ちょっと、急になにするのよ
「うへへ、リリー、だいすきだよ」
「知ってる。知ってるわ、そんなこと」
「……うん。ありがと」
「……?」

困ったような彼女の声はわたしの心を落ち着けてくれるんだ。そう、昔からいつも。だからわたしはぎゅっと彼女のコートを両手でつかんで寄りかかる。おっと。よろけた身体をすかさずジェームズが支える。やっぱり、お似合いのカップルだな、なんて。心の隅でそんなことを思う。

「ねえ、みんな。……今日で、わたしたち、さよならだね」
「ああ」
「そうだね」
「リーマスはさみしい?」
「そりゃあね、君たちとの楽しい日々が終わってしまうのはさみしいね」
「んふふ、でもちょっとホッとしてる?」
「否定はできないかな」
「そっか。……あなたらしいや」
「それはどうも」

いつも通りのスマートな口調でさらりと返してくる彼。うん、この感じがしっくりとする。わたしは一人で満足しつつ、ピーターに笑いかける。っひ!だなんて。相変わらず反応はまだまだだ。べつに何かしたわけではないけれど、昔からそうだ。「おいおい、ワームテールをいじめてくれるなよ、お嬢さん」。うたうようにシリウスが言う。

「べつにいじめてはないんだけどなあ」
「君っていつも彼をビクつかせていたよね」
「もう、放っておいて、ジェームズ!」
「でもそれが事実だろう」
「ああでも、」
「なあに、ピーター?」

もぞもぞとピーターが身体をよじる。うん?なにさ、とわたしが耳を貸してあげたら(彼はわたしより背が低いのでかがまなくちゃいけなかった)、ええと、とまた口ごもってしまう。やれやれ、こまったものだね、とジェームズ。

「その……でも、ぼく、……さんのこと嫌いじゃないです、よ」
「(……!) だって、シリウス」
「おいおい、ワームテール。それはへの告白か?」
「べ、べつにそんなつもりじゃ……!」
「だとよ」
「知ってるったら。まったくシリウスはすぐこうなんだから」
「同感」
「なんだよエヴァンスまで……!」

ちくしょう、とシリウスが口をとがらせる。リリーはいつだってわたしの味方をしてくれるので、すごく頼もしかった。2人して顔を見合わせてわらう。

「まったく、君ら2人にはほんと叶わないな」
「女の子の結びつきの強さをなめないでちょうだい」
「ふん……そんなもの、僕と君との愛の前では無力でしかないさ」
「ああもうジェームズはすぐムキになる……!」
「そういうところ、本当に変ってないよねー」
「そのせいで俺らはいつも貧乏くじさ。……だろ、リーマス?」
「君の言うとおりだよ、うん」
「あははは……」

ピーターの苦笑いを聞きつつ、わたしは(みんなにばれないように)ゆっくりと顔をのぞいていく。一人ずつ、ゆっくり、ゆっくりと。ああ愛しいみなさん、わたしたちはこれからも一生友人(あるいは恋人)であることでしょう。けれどもこの時間は、学生時代は今日でお別れなのです。ああ、だから、わたしは……!







セピアを




縁取る








(ハロー!グッバイ!またいつか)