ほんのり、ふんわりとあまい季節。そんなときに限って彼は、すりすりと(まるでリスかなんかみたいに)すり寄ってくる。ああなに、リーマス?わたしのちょっぴりすました声。しってるよ、あなたがこちらにくる理由なんてと目の前の箱をゆびさした。
「……チョコレートが目当てなんでしょ」
「アー……分かっちゃったかい?」
「(ふん)あなたのことだもの、おお分かりです」
いやあ、参ったなあ、なんて照れくさそうにリーマスが髪をなだめる。まったく、リスでなくとんだ狼だったな、彼は、とわたし。しかたなく紙袋につまれているいくつかの箱の中からてきとうなものを1つ取り出す。「え、……くれるのかい」。彼の顔がほころんだ。
「そんな目でみられたらね、仕方ないからあげる」
「わあ、ありがとう!」
「どういたいまして。……あ、でもみんなにはないしょね?」
「うん?」
「これ、女の子たちからの貰いものだから」
わたしが意味ありげにウインクしてみせると、リーマスは箱とこちらを見くらべて笑った。「すごいお返しの量だね」。呆れまじりに彼がいう。
「いったい何人にチョコレートをあげたの?」
「えーと、6人だけど……」
「なにそれジョーク?倍以上はあるじゃあないか」
「そうなの」
「?」
「これ、ぜんぶシリウスから、バレンタインデーのお返しだって」
「はああ?!」
リーマスが素っ頓狂な声をあげる(わたしも貰ったときにすごく驚いたからひとのこと言えないけど)。あいかわらず目をぱちくりしている彼に視線をうつしつつ、わたしは5個ぶんのラッピングされたそれを取り出す。
「これはそれぞれリリーとジェームズとピーターとセブルスの。で、シリウスがこれと、……あとぜんぶ」
「ごめん、分かりやすく説明してくれるかい」
「あはは、そだね。ええと、ほら、シリウスって女の子に人気があるじゃない?」
「うんうん」
「で、その子たちがホワイトデーにも関わらず彼にプレゼントしまくっているらしくて」
「……めちゃくちゃだね、それは」
「でしょ。シリウスったら自分が甘いもの苦手だからってイベントに便乗して全部わたしに送りつけてきたの!」
ひどいはなしだよね、まったく。ふつふつとするわたしをリーマスが苦笑いでたしなめる。さすがに本当のお返しのぶんは(気をつかったらしくて)きれいな真珠の髪飾りだったけれど、それでもやっぱり可笑しなはなしだと思う。理不尽だ。
「まあまあ、落ちつきなったら」
「だってー!」
「はいはい。チョコレートなら僕がもらってあげるよ、」
「こら。それはあなたが食べたいだけでしょ」
「あはは」
「笑ってごまかさないのー」
わたしが頬をふくらませているわきで、さっそく包みに手をだしている彼。たしかにリーマスは甘いものが似合うのだけれど、一度にそんなにたべたら膨れてしまうと思う。もちろん横に。それは少しいやだなあ、わたしはスマートなリーマスのがすきだなあ、とひとりで考え込んでいると、、だなんて。やわらかい響きとともに、くちびるにやわらかい感触。
「……う、……?」
とっさにつむった瞼をあけると、そこにあったのはリーマスの顔ではなくて。目のくりくりとしたかわいらしいピンクのテディベアの顔。え、え、え、……!思わず口をぱくぱくとさせる。(なにこれ、なんで……!)。
「(くすくす)おどろいたかい?」
「ちょっと、……リーマス!」
「ごめんったら、おこらないでよ。……ほら」
「え、なに。くれるの」
「そういうこと。僕からのお返しだからね」
そのままくしゃくしゃと頭をなでられ、さきほどのぬいぐるみを手わたされる。「わあ、すてき!かわいい!」なんてわたしが感嘆の声をあげると、彼はうれしそうに笑った。そして一口わたしの(あげてない方の)クッキーをつまんでひと言、
「さあ、食後の散歩はいかかでしょうか、お姫さま」
残らずあげる
そんな彼の誘いをわたしが断れることもなく。「ええ、よろこんで王子さま」。落とすクッキーの行方さえ知らずに駆けだした。(ああもう、あなたが一番あまいんだから!)