「風介はかわいいよね」

わたしがそう言うと彼はすこし首をかしげて、「意味が分からないよ」とひと言だけ言った。あいかわらずの、感情のはいらない声。だけどわたしには何となくわかる。ちょっぴり呆れているのだ、彼は。

「んふふ、言ったまんまの意味だよ」
「それが意味不明だといってるんだ」
「だからあなたがかわいいって、」
「うるさいぞ、

風介がぴしゃりと言う。そのまま視線を(さっきまで読んでいた)サッカー雑誌へと即もどし、わたしにこれ以上口を開くなと言わんばかりに鼻をならした。……ええと、怒った?くるくると彼の髪を指にからませもてあそぶ。

「……別に」
「そう?ならもう少し遊ばせてもらおう」
、君ってやつは……!よっぽど私を怒らせたいみたいだね」
「まさか!ちょっとからかってみただけ」
「まったく……これが晴矢とかだっから間違いなくノーザンインパクトをかましていたところだったよ」
「うん、ありがとう」

わたしはふにゃふにゃとほほ笑む。風介はそれから黙りこんでしまったけれど、そのふわふわとする髪からのぞく真っ赤な耳が彼の表情をあらわしていた。(あ、照れてる)。やっぱりかわいいなあ、なんて思っていると、「口に出ているよ」なんて指摘されている。今度はちょっぴり不機嫌そうに。

「え、うそー」
「……それは君の本心かい?」
「あはは、ばれた?今わざと言ったの」
「………。」
「ああもう機嫌なおしてよ、かわいいのは事実なんだしさ」
「私は男だ」

うーん、これはまずい、かな?わたしはちょっぴり考え込む。それから、ゆっくりと彼のうしろにまわり、その細い首筋に腕をまわした。「ね、機嫌なおしてよ」なんて。今度はあまったるい声で顔色をのぞく。

「……やだね」
「あー……、ほめてるのになんで分からないかなあ」
「ふん」
「わたしが悪かったってば、風介は美人さんだし、サッカーうまいし、すてきだよ」
「……。」
「そうやってすぐ怒ったりしちゃうところも含めてぜんぶ、すき」
「ばっ!馬鹿か君は!」
「あ、機嫌なおしてくれた?」
「……!」

ぱっと顔を赤くさせる風介に、わたしはすかさずキスをする。彼のやわらかい頬に、ちゅ、だなんてかわいらしいリップ音をわざと立てて。「……不意打ちなんて反則だ」。そんな小さな声が聞こえたような気がする。

「うん?なに、なんか言った?」
「うるさいよ、君は口を慎むべきだ」
「ええ、そんなあ……んっ、」

いつのまにか目の前には彼の顔。そして視界はぐらりとゆれる。(ああ、ああ、ああ!)






すくないキス



すりきれるまで



「私を負かせるなんて、あと100年は早いね、