すやすや響くみんなの寝息と、時計の音。それから、もやもやと瞼のあたりでざわめく影にまどろんだ目をかるくこすりつつ、よいしょ、なんて。わたしはひっとりとベッドを抜け出した。めざすのは向こうの角の部屋。うすぐらい廊下をあるく。







「はるや、はるや、……ねえ、はるやったら」

未だ夢のなかの彼をつんつん、と呼びおこす。うん……?なんてかすかに返事したその目は未だ半開きのままで、つり目な彼からは想像できないくらいのあほ面だった。(ちょっとかわいい、かも)。思わずくすくすと笑ってしまう。

「……ん、……なに、笑ってんの」
「うん、晴矢の寝顔おもしろいなあって」
「……はあ…、なんだそりゃ」
「ああ気にしないで、いい意味だから」

ふわーっと大きなあくび。それから(まだ眠たいのかね?)彼はすごしだけ間をおいて、「行くか」と。ひと言だけわたしに聞いた。ぶっきらぼうだけど、どこかあたたかみのある声だった。うん、とわたし。にっこりと笑いかえす。















「ね、晴矢、わたし夜に園抜け出すなんてはじめて!」
「ばか、大きな声だすなっつーの。父さんたちにばれるだろ」
「うんうん、分かってるったら」
「ったく……お前ほんとかよ」
「そりゃあね、もうばっちり大丈夫」
、ちょう説得力ねえな」

ええそれはひどいー、なんて。こんな調子で繰りひろげられる会話。だけど、この感じがすきだった。昔からそう。晴矢とあそんで、父さまたちにおこられて。そうして結局はふたりで罰のぞうきんがけ(これがけっこうきついのね)。少しばかだとは思うけれど、今みたいにつるんでいるのが楽しくてしかたない。しかたがないんだ。

「あなたもそうだよね?」
「はあ、なにが」
「(くすくす)それは内緒」
「なんだよ、気になるじゃねえか」
「うーん、まあ、いいからいいから」

さあもう行こう?苦笑いでなんとかごまかす。晴矢はなんだか納得していないようだったけれど、あえて。あえてわたしは気づかないふりをした。(だって本当のことなんて言えないもの)。
「よし、。お前ここでちょっと待ってろ」。不意に彼が立ち止まる。言われるがままに足を止めるわたし。うん?だなんて頭にクエスチョンマークを浮かべていると、「いいから」と手で制されてしまった。

「? なにするの」
「まあ見てろって」

そのままひょいひょいっとお日さま園の門をとびこえていく晴矢。(み、身軽だ……)。わたしは驚いたり感心したりしつつも、彼の方をじっと見つづける。月あかりに照らされて、ちょっぴりいつもと違う感じのする晴矢の顔。それがなんだかこわかった。(まるで知らないひとみたいだ)。

「……う、…はる、や……?」
「なんだよ、そんな顔して。怖気づいたか、はは」
「ば、ばかじゃあないの、あなた」
「へえ」
「なに、その目。ほんとにちがうったら」

どうやら彼はわたしが暗いのにおびえていると勘違いしたらしい。いつもの2倍くらいのいたづらっぽい笑みをみせて、いつもより3割ましくらいのやさしい声で「ほら、」と手をかしてくれた。まるで別世界に誘われているような感覚。それはどこかふわふわとしていて浮世離れしたもののようだったけれど、晴矢とつないだ手は確かに、わたしの心臓をうならせるほどの現実味を帯びていた。










ばれて


「……?」「ええと、……もうすこし手、つないでて」「……おー」