人気のない部室。そのすこし汗臭い部屋で、わたしは一人いそいそと準備する。(何をってそりゃあ豆まきの)。さっきまではすぐとなりに迅とかがいたのだけれど、「腹へったー」とかなんとか適当なことを言ってかえってしまった。だから、ここにいるのはわたし一人。そう思っていたはずだったのに。

「なーにしてんだよ、

不意にうしろから声がかかる。ちょっぴり楽しそうで、よく響く彼のそれを、わたしが聞き違えるはずがなかった。「……準太」。ふりかえって顔を確認すると、にやりと返される(にっこり、の方がよかったかな?)。

「まだ帰ってなかったんだ?」
「そっちこそ」
「あはは、わたしはいいの。ちょっとやることあるし」
「やることって?」
「うーん、……まだ言わない」

なんだよそれ、と彼が呆れたように頭をかく。そのままぼずん、と鈍い音を響かせて桐青とかかれたエナメルを置いた。……ちょっと、中身つまりすぎでしょ、あなた。なんてすこし苦笑い。なんだか彼が手持ちぶさたにしているようだったので、わたしはちょいちょいと手招きした。

「ん、なに」
「またそんな言い方して。うれしそうな顔してるのおおばれだから」
「そっそんなんしてねーよ!」
「ばかだねー、準太(くすくす)」

照れちゃってかーわいー。そうからかうわたしに、準太が「うるさい」とのしかかる。(……思いっての!)。 じたばたと抵抗しても逆にぎゅうぎゅうと押し返されてしまうので、しかたがなくあきらめる羽目となる。ちくしょう。

「……で、なんなの」
「そこどいたら見せてあげるよ」
「なんだよ、もったいぶんなって」
「えー? これは切実な思いなんだけどなあ」
ー」

あーはいはい、しょうがないなあもう。頑固な彼に折れて、わたしはのそのそと最低限の動きで豆まきセットをとりだす。……と、同時にななめ上の方から盛大に吹きだした彼の声を聞いた。

「……ちょっと、準太……?」
「ふはっ、……、これっ…、なに……!(ぶーくすくすくす!)」
「なにって豆、」
「そりゃあ見ればわかるっての!……こっち、は?」
「……鬼のお面」
「鬼!? これが鬼!? ぎゃははははは!」

……どうしよう、すごーく腹がたってきたぞわたし。じとりと彼を睨みつける。準太が笑っているのはきっとわたしの画力のせいだと思うけれど(なんたって鬼のお面は手作りだったのだから!)、ここまで爆笑されるとむかつく、ぞ……!

「準太なんかもうしらないよ!」
「わっ、ちょっと、そんな怒るなって」
「しーらーなーいー」
「ああもう、悪かったって!(ふはっ)」
「! また笑ってるし」

フイとそっぽを向くわたし。それに気づいた彼があわてて機嫌をとるように、ごめんごめんとあやまる。謝罪の言葉を述べつつもときどき吹きだす声がきこえてくるので、それがまたおもしろくなかった。













「だってあんまりにも予想をうらぎる結果だったから、おもしろくて」

未だにげらげらと笑っている彼が、涙を拭きながら言う。さっきからこんな調子で、「ほら、送ってやるから許してよ」なんていうセリフも全然かっこよくなかった。(……もう)。いつもの帰り道の、彼より数歩前をあるく。

「……予想って?」
「おっ、やっとこっち見たな、よし」
「かまかけたな、あなた」
「ちがうって、ほんとに。本当に予想外だったんだって」

だからなにが。噛みつくように言いかけたわたしに、準太がぐっと携帯をつきだす。

「今日、」
「うん?」
「オレの誕生日だったんだよね、まあ」
「……うん?」
「だからが残っててくれたのもオレのためだったりして、とか思ったりして」

そこで彼がにやりと笑う。(え、え、え……!)。じゃあなに、部室に入ってきたときにやけに上機嫌だったのも、わたしがお祝いしてくれると期待してたから、なわけ……!思わず口をぱくぱくしてしまう。

「はは、のアホ面」
「う、うるさい! ……というか、言ってくれればよかったのに、」
「ん?」
「そしたらプレゼントとかも、用意してあげたのに……」
「そんなの自分で言うとかオレ恥ずかしい奴になちゃうでしょ」
「まあ、そうですけど……」

否定しないのかよ、お前ー!準太がけたけたと笑いとばす。(うん)。……でも、ちょっとショックだった。なにがって付き合ってる相手の誕生日も知らないってことが。準太はわたしの誕生日をちゃあんとお祝いしてくれてたのに(利央もいたけど)。

「なんというか……ごめんね」
「気にしてないからいいよ。……それより、」
「それより?」
はオレをこれ以上恥ずかしい奴にさせたいの?」
「……あ!」
「そうそう、察してもらわないと」

うんうんとうなずく彼。なんだか今とさっきとでは立場が逆転してしまったみたいだ。(くやしい)(でも、でも……!)

「ああもう、ハッピーバースデー、準太!」
「おう、さんきゅ」




ロミオの



策略




「プレゼントなにほしい?」「がお面わらったの許してくれて、それでオレにめいっぱいデレてくれること」「じゃあ、あーげない!」