「あ、シリウスー、いま何時?」
振りかえり際にが問う。うしろにはベッドがあるというのに、わざわざ床にちょこんとすわっている彼女。……いくら部屋の中があたたかいとはいえ、そんなところじゃあつめたいだろうに。シリウスはそんなことを思いつつ、ベッドに寄りかかる彼女にセーターを投げかけた。ふかいブルーの、ちょっぴり高そうなセーター。彼女はそれをいぶかしげに見つめた。
「……なにこれ」
「セーター」
「いや、それはわかるけどね、……うん?」
「つかえよ、見てるこっちがさむい」
「アー……ありがと」
「ん」
もそもそと着込む彼女は、んふふ、とわらう。呼吸のたびにすいこむ空気はすこしにがくて、でもどこか甘ったるくて。まるでシリウスみたいだ、なんては心のなかでつぶやいた。(そりゃあ彼のものだから当たり前なのだけれどね)。自然とほころぶ顔に、何にやついてんだ、とシリウス。ちょこんとどつかれる。
「だって、シリウスくさい」
「そりゃあ俺のだからな、当たり前だ、ばか」
「でもくさいよ」
「……それ、返してもらおうか」
「やだ。……これがいいの」
「そうかよ」
「うん」
くすくすとは、いつになく上機嫌だ。ふだんあまり甘えてくることのない彼女が、どうして。シリウスは首をかしげる。いつもなら、もっと突き放してくるのに。心の中でもやもやとする疑問。
「ねえ、何時になったの」
うん?不意に問われてちょっぴり間抜けな声でききかえす。「だから、今何時なの!」。そう答える彼女はおもしろいくらいムキになった。まるで子どもみたいに、いい意味でナーバスになっているらしかった。
「11時48分」
「……うーん、まだながいなあ、」
「なにが」
「それはさ、ほら。日付がかわるまで」
……なるほど。シリウスがうんうんと頷く。彼女は待っていたのだ、12月31日が1月1日にかわる瞬間を。年がかわる瞬間を。「こんなすてきな日、わくわくしないわけないでしょ」、なあんては目をかがやかせる。
「でね、わたし、ちょっとしたいことがあるんだ」
「へえ、なにを?」
「ジャンプ。年がかわった瞬間、わたしは地球にはいませんでした!ってやってみたいの」
「……あほらし」
なかば呆れ気味に言うシリウスにはちょっぴり不満げなようすだ。そのまま自然な流れでとなりに腰かける。ちょっと。すかさず口をだす彼女。
「……なんだよ」
「となりに来てもいいよ、なあんていってないよ」
「おあいにく。ここは俺の部屋なんでな」
「だからどこにいようと自分の勝手?」
「まあ、そういうことだ」
なにそれ、ばかじゃないの。彼女はのどをクックとならす。笑いをこらえている証拠だ。たぶん。シリウスはそんなようすを横目で眺めるとともに、の頭をなでてやる。(……あいかわらずの猫っ毛)。目を細めた。
「あのね、」
「うん?」
「……やっぱなんでもない」
そのまま顔をうずめてしまう。「おい、なんだよ、気になるだろ、言えよ」。悪ノリしたシリウスがそんな彼女にちょっかいをだす。首筋を重点的にくすぐるのだ。わ、わたしの弱点をしってて……!
「ちょっと、やだ、しりうす!……うひっ、あ、あはははあ」
「うら、早く白状しろう!」
「きゃ、ふ、あはは」
「どうだ、いう気になったか?」
「やだやだっひふっ……あ、ほら、時間時間!みてよ」
こいつ話をそらそうとしてるな、なんて思いながらも、まあ乗ってやるかと時計を見る。11時59分。日付がかわるまであと1分。がそれを確認して、ぱっと立ちあがった。「ほら、シリウスも!」、なんて。差し出された手を彼はとる。
「よっこらせ、」
「うわ、、ばばくせぇ」
「うるさいなあ!……いい?せーのでわたしと一緒にジャンプだからね」
「はいはい」
「せえーのっ!」
「え!ちょ、シリウス?!なんでひっぱ、……ン、」
「ジャンプより」
「うへ?」
「こっちの方が俺の性にあってるよな、やっぱり」
「な!……シリウスのばーか!ばーかばーか!いじわる!」
「何とでもいえ」
キスに奪われる
「よし、このまま姫はじめすんぞ、」