つめたい、初雪のふった次の朝。そんな日はだれだって心がおどる。ゆき、ゆき、ゆき。その白い世界にぼくらは溶け込みながら、やんわりと、たしかに。その感触を手にした。
「すごい! すごいすごいすごい! すごいよ、リーマス!」
両手いっぱいに雪のやまを抱えてがうれしそうに駆ける。右から左、左から右。まるでこのあたり一面に、自分の足跡をつけて歩こうとするみたいな、そんなせわしない姿。
「ったらはしゃぎすぎだよ」。ぼくはくすりとわらい、彼女のあとをおいかけていく。やわらかい新雪に埋もれないように、そっと、そっと彼女の靴あとに自分のそれを重ねてすすむのだ。
「リーマスったら、なあにもたもたしてるの! はやくきてったら!」
「はいはい。わかってるって」
「はやくー!」
まったく、君はなんでこうも元気なのかな。僕はそっと溜息のような、でもちょっぴり笑みを含んだ吐息をもらす。おいかけるの足跡は小さくて、せまくって歩きずらい。女の子だからそりゃあちがうよな、なんて頭の中では理解しているけど、やっぱり合わないものは合わないと割り切ってしまうのだった。
「もう、あなたおよいよ!」
しびれを切らしたがひょこっとぼくの前から顔をだす。「おっと!」。ずいぶん身軽に雪の上を移動してくるので、おどろいたぼくは思わずバランスをくずしてうしろに傾きかけた。ぐらりとゆれる視界。無意識のうちにのばしていた手が、偶然にも(故意的にも?)彼女を引っぱっていた。
「きゃあ!」
「ウワーッ」
そのまま2人でしろい海に勢いよくダイブ。おもしろいくらいに雪のクッションはやわらかくて心地よい。まあ冷たくて、じかにそれが触れるところは痛いけれど、ごつん、と倒れこむ彼女とぶつかってしまったおでこは少し熱いような気がした。
「いたたた……、」
「……? へいきかい?」
「まあ、あなたを怒るくらいには」
「そう。なら調子はよさそうだね、……アイタッ」
「今のはわたしの皮肉なの、ひにく!」
自分がぼくの上に倒れこんだのをいいことに、ぐいぐいと体重をのせてくる。彼女にかぎって重くてたえられない、なんてことはないけれど、多少なりにはこちらにダメージを与えてくる。正直に「重いよ、」とぼくが言うと「リーマスってば失礼だよ」とかぶっていた帽子をぐーっと下げられてしまった。
「ああ、ねえ、これじゃあ前がよく見えないよ」
「いいの。わたしを巻き込んだばつです」
「だってこれは事故じゃないか」
「でも原因はあなた」
につき出された指が、ちょん、とぼくの肩を押す。そのまま再びぐらりとしてはたまらないので、今度はわざと彼女の腕をつかみ、自分から雪の中に身体をなげた。ひゃあ! つめたい! の悲鳴が耳元できこえる。
「なんてことするのリーマス……!」
「ぼくのせいじゃないさ、今のは君が原因だろ」
「んな……っ!」
してやったり。ぼくはにこりとほほ笑んで、ローブにくるまれたような彼女をぎゅっとだきしめる。
「ねえ、。この帽子、直してもらえるかい?」
「(!) ……う、……し、しょうがないなあ。……ほら、これでいいでしょ」
「うん、ありがとう」
「……。」
「……。」
「……。」
「……ちょっと、なんではなしてくれないの!」
別に直してくれたらはなしてあげる、なんて一言もいってないよ? ぼくがそう言うとは憤慨したようにフンと鼻をならした。「リーマスったら、だましたね……!」。このアングルからじゃ彼女の表情はみえないけれど、たぶん(いやきっと)、じとりと恨めしがましそうな眼をしていると思う。そんなようすを想像したらおかしくて、ぼくはついつい笑ってしまった。
「あっもう、ひとりでわらわないでよ……!」
「あはは、ごめんごめん。がおもしろくて……!」
「全然いみわかんないー」
じたばたするの背中をぽんぽんと叩き、「悪かったね」と起こしてあげる。彼女はだいぶ不服そうだったけれど、「あとでココアをごちそうしてあげるよ」と言ったら機嫌をなおしてくれた。素直でよろしい。
「ああもう、あなたのせいで手がまっかだよ」
「うわ、これはひどいや。しもやけになる前にもどろう?」
「ええー! わたしもうちょっとリーマスとあそんでたいな」
「お言葉はうれしいけど、かぜをひいたら元も子もないからね……ほら」
だから今は城にもどろう? そう差し伸べた手をはぎゅっと握ってくれた。その手はつめたい。きんきんにひえた雪のように。でも、やっぱり。ぼくはなぜかあついと思ってしまった。(ねつでもあるのかな?)。
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