「なんか、もったいないなあ」


窓の外をちらりと見ながら、が言う。はあ、何が、と俺。あまりにも不意に言われた言葉だったので、ついつい怪訝そうな聞きかえしをしてしまった。けど、彼女は気にしない。どこかうつろげな目でふうっと溜息をついてみせただけだった。

外では雨がふっていた。しとしと、しとしと。同じような、だけど少しずつ変化をもった水のはねる音。せっかくかけた音楽とリズムが重なり、なんだか不思議な気分にさせたられる。「それ、消して」。がこちらも見ずに言った。


「……ん、なんで」
「いいから」
「……ほら、これでいい?」
「はい、ありがと。わたし、雨のおとってなんかすきよ」
「ああ、そう」
「んふふ、つれないなあ、孝介は」


くすくすと彼女はわらい、俺のわき__を通り過ぎて、ベッドによいしょと腰掛ける。最近、よくよいしょって言っちゃうんだよねえ、なんて。スウは自分でいって自分でまたんふふと肩をゆらした。


「…、なんか酔っぱらってるみてえ」
「ばか、まだ未成年です」
「だってなんか変だぞ、お前」
「うーん、なんかいろいろ考えちゃって」


いろいろってなに?と俺が聞くと、は「それはないしょ」と言って口元で人差し指をたててみせた。子供がやるような内緒のポーズ。だけどそれが妙に似合う。なんだよ、はっきり言えよ、と俺。


「いやだね、わたしは今時間のむだづかいを楽しんでるんだから」
「なにそれ。意味不明なんだけど」
「あはは、きっと孝介にはわからないよ。うん、わからなくていい」
「お前なあ」


イミワカンネーんだよ、と投げ出された彼女のあしをげしげしと蹴る。そりゃあもちろん、癪だったもので。言いたいことがあるならさっさと言えっての、ばかやろう。そんな俺のいらいらをくみ取ってかくみ取らないでか、がぎゃあとさわぎつつも悪戯っぽく言う。「……じゃあ、ヒント」。なんて。


「今日はせっかくのおやすみの日。学校も、部活も、バイトも。みんなおやすみ」
「……はあ?」
「おまけに、あいにくのこのお天気ときたものです」
「……(だからなにが言いたいんだよ)」
「さあて、わたしはこれからどうしたらいいでしょうか」


くるくると表情をかえて、おもしろおかしく話をしてみせる彼女。さっきからその口角が上がりっぱなしであるので、特別に機嫌がそさそうなのが手に取るようにわかった。とくにやることもないので、仕方ない、それに便乗してやるか。俺は(別に重たくもなんともないけど)重たい腰をもちあげて、のその顎に手をかける。


「そんなの楽勝、俺においしくいただかれる。……だろ?」
「んふふ、孝介、あんたって天才。そういうところがすてきだね」


そりゃあどうも。そう言い終わらぬうちに、彼女からの不意打ちのキスが献上される。