「ほんと、新学期の朝って憂鬱」


わたしは机にぐたーっと突っ伏して、うなるように言う。ね、そう思わない?前の席の水谷くんがちょうど席に着いたので、すかさず同意を求める。え、なにがー?という彼の声は相変わらずゆるーいものだった。


「だからあ、新学期の朝って嫌だよねってはなし」
「あーはいはい、その気持ちよく分かるー!朝なかなか家から出られなくなるよねえ」
「でしょ」


もういやになっちゃうよ、まったく。ふん、と鼻をならすわたし。それをみた水谷君はあはは、と笑って席をちょっと後ろに引いた。こつん、と彼のイスとわたしの机がぶつかる。


でさあ、あと鬱になるのはー……と話をはなしを続けようとするわたしたちは、きょろきょろと周りをみまわす。もちろん、共感ねたを探すためだ。ねえ、夏休みの課題おわった?なんていう、休み明けお決まりの台詞。あたし終わったよー、と友だちが得意げに言っているのがきこえてきた。……それから、ちらりと水谷くんと視線があう。(きっと今、彼もわたしと同じことを思ったにちがいない)。


「……とくに、課題が終わってないときがすごく憂鬱になるよね」
「……ね」
「わたしあと国語と数学と英語ある」
「う、ちゃんそれ、ぜんぶだよ……!」


俺でも数英は終わらせてきたんだぞお、と水谷くんがあおい顔をする。まさか。どうせ彼のことだから、わたしと同じようにだらだらっと夏休みを過ごしてきたと思っていたのに……!(期待してたのに……!)


「もー、ちょっとは計画的にやんなきゃあ」
「水谷くんに言われたくないです」
「えー!」
「だって週末課題、いっつもやってきてなかったじゃないのさ」


裏切られたような気持ちになって、ちょっと怒ったような口調で言う。おまけのおまけで、少しばかりにらみを効かせて。案の定、う、と彼は視線をそらして、もごもごと口ごもった。なんて単純な。


「……だ、だっていつもはれんしゅーで忙しくって……。第一、やってこないちゃんがわるいんでしょ」
「期待してたのに」
「え?……あ、……お、俺だってやるときはやる男なの!」
「クソレフトなのに」
「ちょっと、ちゃんそれどこで……!」


ないしょ、と言ってちらりと阿部の方を見ると「……んだよ、」なんて、ああおそろしい目。なあんでもないよ、とわたし。水谷くんは恨みがましそうに彼を見つめる。……なにやらぶつくさと聞こえるのはあえて放置することにした。


「はあ……ほんと、どうしてやろうかな」
「なになに課題?」
「そ。あーもー夏休み中だらけきってたわたしのばかあ」
「えへへ、俺はそれなりに毎日充実してたもんね」
「ずるい。わたしも野球すればよかった」
「いや、遊びじゃないからね、そんな言い方やめてね」


水谷くんがわたしをたしなめる。別にそう言う意味でいったんじゃないのに、なんかくやしい、むかつく。なので、うるさーい!とその背中をばしばしと連打してやった。「お、俺にあたるなよう」。彼が情けない声をあげる。


「だって課題やったら夏休み終わっちゃいそうな気がするでしょ」
「しないよ!なんもしなくても夏休みは終わっちゃうよ!」
「……あと、なんか負けたような気もするし、」
「しないってばあ」
「するする」


ああ、なんで夏休みは終わってしまったの。わたしはがっくりと肩をおとす。課題は終わってないし、教室は暑いし、うるさいし。もう、なんか、


「……かえりたい、」
「え、ちょっと、ちゃん?!」
「学校きらい面倒くさい……もういたくないよ−」
「そんなこと言わないでさあ、俺と一緒にがんばろうよ、ね?」
「……水谷くんと一緒じゃあ、よけいだめな気がする(ぐすっ)」