練習後はもう暑くて、汗だくで。おまけに泥だらけになるもんだから、水道で水を頭から被るのが俺の日課みたいなものだった。(まあ、俺じゃなくてもうちの野球部の奴らはやるか)。もちろん今日もそうしていると、「はい、どーぞ」、なんて。水道の向こう側からがタオルを渡してくれた。さんきゅ。俺はそれを受け取る。

「うへへ、どーいたしまして!水浴びきもちよさそうだねー」
「まあね。もしちゃえば……ってなんだ、もうしてんじゃん」

あ、あははー…と笑って誤魔化そうとする彼女を俺はじとりと見つめる。水道の蛇口やら何やらで隠れてはいるが、その姿はしたたる水で煌めいていた。まったく。白い目。

「……だって、あっちで田島とかが水まきしてて……あ、水まきっていうか、グラウンド整備のね!」
「……で、お前も混ざってきたと?」
「うーん、その通り」

なんかすごく楽しそうでさあ、と。お前なあ……!と俺は突っ込んでやりたかったが、あんまりにも嬉しそうな顔をして言うので怒る気も失せた。それから、ちららと彼女の言う「あっち」を見る。そこでは先が真上の空を向いたホースを持った田島と(本人曰く太陽を消火するらしい)、悪のりする泉、それから妙に目を輝かせた三橋の3人がいた。

「……ね?おもしろそうでしょう」
「そういう問題じゃなくて。……まったく、あいつらはグラウンドの片付け役、クビだな」
「まあまあ。あっついんだからしょーがないよ」

はあ。溜息。それから、にお前もそろそろ髪とか拭けば?と進める。うん?と髪をまとめる彼女の仕草がどうも色っぽくて、俺は不本意ながらにもどきりとした。(おいおい、こいつのどこにそんな要素があるんだ?)(いや、ないだろ)。

「かぜ引いてもしらねーぞ」
「ああ、なに。阿部ったら心配してくれるんだ、やさしいなあ」
「ばーか。そんなんじゃないって……が休んだらマネジが1人で篠岡がかわいそーだろ」
「……もー、阿部は!」

がちょっぴり口をとがらせながら言う。俺はわしゃわしゃと自分の頭を拭いたタオルを投げつけた。もちろん、相手に。いったい!彼女の悲鳴。けど、さすが野球部のマネージャーをしてるだけあってちゃっかりキャッチしてた。なにするのー!ブンブンとタオルをまわし、俺めがけてそれを振るう。

「わ!やめろよ、なにすんだ」
「阿部がわたしにタオル投げたお返しですー」
「むしろ仕返しじゃねーかよ!」
「ちがうってば、それ、阿部の解釈にもよるでしょう」
「はあ?!」

もーいいからお前は黙ってそれで髪をちゃんとふけよ!そんな俺の気遣いなんてこれっぽちも彼女には伝わらない。(あーもう!)。