委員会で部活行くのがちょっと遅れて。キャプテンがこれじゃあいけねーよなあ、なんて思いながら急ぎ足でグラウンドへ向かう。ちょうど渡り廊下のところでとすれ違って、あっちがぺこりとお辞儀をしてくれたから、つられて俺も帽子をとって頭を下げた。そんなにかしこまらなくてもいいのに、と彼女は笑う。

「いや、なんか……慣れで」
「なにそれ、花井くんおもしろいなあ」
「そうかあ?俺よか田島や三橋のがおもしれーと思うけど」
「あーはいはい、あの2人ね。……うん、野球部の人ってなんかおもしろい」

なんかってなんだよ、と俺は言いたかったけれどがあんまりにも楽しそうに笑うものだから、ついついこちらも頬が緩んでしまった。(きっと今俺はすごくだらしがない顔をしてるんだろうな)(うわあ)。

「あー……はなに、部活中?」
「そうそう。もうちょっとで吹部のオーディションがあって。トロンボーンのね」
「へえ」

あいにく、俺はそーゆー音楽的な知識はさっぱりなもので、曖昧な返事しかできない(ああ、こういう時、せめて何か言ってやれたら……!)。も察してくれてたようで、まるっぽくてくるんとしたのがついた金色の楽器なんだけどね、と身振り手振りを交えながら教えてくれた。うわ、気ィつかわせちまった。心の中でひとり反省。

「あ、そだ、花井くん」
「うん?」
「夏の大会、がんばってね!……ほんとは直接応援に行けたらよかったんだけど、あの、部活があって」
「(にがんばってって言われた!)……お、おう」
「でもね、このオーディションですごくよく出来たら、私も行けるかも知れないんだ」

だから、花井くんの応援ができるように私もがんばるよ!と意気込む。えへへ、と笑いながら握り拳をつくってみせる。

「……な、なんか照れるな、こういう風に言われるとサ」
「あはは、花井くんてば顔赤いよ−」
「あっついからだよ!……だからあんまし見んなって」
「うーん、確かに。夕方だけど日差しは強いまんまだよねえ」

日焼けしたくないなあ、と建物の影に隠れて言う。ちょっぴり距離が近づいて、俺は自分の心拍が上がった気がした。どうか、こいつにバレませんように……そう祈るしかない。(でも、やっぱ、だめだ!)(ぜったい分かっちゃうってこれ!)

「そ、それじゃあ、俺、部活行かなきゃだから」
「うん。がんばってね」
「もな。(あー、)……ぜったい、俺らの試合見に来いよ」
「え、……あ、うん!い、いくよ!ぜったい!だからお互いがんばろう」

走る、走る、走る。この鼓動がに気づかれないように、この気持ちが悟られてしまわないように。(どうしよう、見に来いよって言っちまった……!)。そうだ、きっと今のは暑さの所為なんだ。だから……だから、たとえさっきののがかすかに赤く見えたのも、みんな、(暑いからに決まってる!)(うぬぼれるな、うぬぼれるな、俺)