「、一緒にかえろうぜ」。きらりと光の反射する自転車に手を掛けて、榛名はにやりと目を細めました。
(たぶん、一般常識でいう2人乗りというものは青春を謳歌している彼氏彼女が行うもので、決して私のような下僕人間と彼のような俺様榛名様やろうがするものではないのである。したがって、今、この状況は全く持って理解しがたいものなのである。)
どうしてなんだ、どうしてなんだ。どうして私がこんな目に……!2人分の体重のかかるペダルを漕いで早10分。いい加減体力がゼロになるところで、うしろに乗った榛名が「」と私の名前を呼んだ。なんだ、これで解放されるのか……!ホッと胸をなで下ろしたのもつかの間、いただいたのは遅え、という叱咤。(お、鬼……!)、
「ふ、ふざっ、ふざっけんな、……こっちは、も、限界だって、の……!」
「体力ねーな、お前。これくらいの距離楽勝だろ」
「あんたと、くらべるな。帰宅部、な、なめるなよ、」
それから榛名は、はは、そりゃそーだ、と笑って私の肩をばんばんと叩いた。それにしても、手がでかい。身体、というか自転車ごとぐらりとしてしまいそうになる。そのため、私は懸命に先ほどよりもバランスにまで気を使わなくてはいけなかった。ちょっと、倒れるから!悲鳴にも似た自分の声。
「自転車倒して野球部のエースにケガさせたら死刑な」
「ば、ばかじゃないの、そんなの自業自得、でしょ」
「へえ」
「だ、第一、なんで私が、あんたの運転手しなくちゃ、いけ……ない、わけっ」
普通は男が漕ぐもんじゃないの、と反論すると、俺はフツーじゃないからいいんだよ、と榛名は高らかに言う。まったく、どこまで自信過剰家なんだお前は……!私のこの気持ちも彼には届くまい。
「ちくしょう、そんなの認めなーい!」
「ほれ、。そんなん叫ぶ元気があったらもっとペダル焦げ」
あの、地獄のサイクリングの末、なぜか私はコンビニにいた。もちろん榛名と一緒に。これで休めるハッピー!という気持ちと、「そこで待っていろ」と彼に言いつけられた暑さの中で募るばかりの苛立ちと。それから、なんで榛名は私ばかりをいじめるのだろうか、というたくさんの感情が混ざり合ってぐるぐると心の中をめぐる。まあ最終的には何もかもどーでもよくなってきて、ボーッとすることに専念した(つまり、放棄したのだ)。
「?」
「なんだあ……う!」
榛名に呼ばれて振り返ろうとした途端に喰らった、何かつめたいもの。頬がぴりりとする。なに、これ。
「……え」
「サイダー、買ったらちょうど当たった」
「……くれるの」
「チャリ漕いだぶんの駄賃。やるよ」
「……やたっ、はるな、ありがとー!」
これは、なんてことだ。榛名が、まさか、そんな……!感激しながら缶ジュースを彼の手から受け取る。ひんやりと湿る指先の感覚に思わず生唾がたまる。(ああ水だ水だ水だ)。それから、私は一気にプルを引っ張った。プシュ!空気の漏れる音に思わず身を引く。
「え、ちょ!わっ、なんで……!」
だらだらとサイダーまみれになる私を見て、なんと彼は大爆笑したいた。そう、榛名はわざと振った炭酸を私に開けさせたのだ。(なんてやつ……!)私は彼を睨み付ける。
「……」
「あっははははは、マジ梅田、お前さいこう!やばい、つぼる!」
「……はーるーなー!」
「ぎゃははは」
「あーもうばか、あほ、ばかー!」