テスト後の学校はなんだかやるせなくて。休み時間もぼーっとしたり、ふあああって欠伸したり。だいぶたるんでるなあ、私。今日もぼうっと階段わきの窓から外を見下ろす。チロルチョコサイズの車やぽんぽん菓子のようなちっぽけな人。それから、さわやかなミントガムの包装紙のようなあおいそら。(…別にお腹すいてるわけじゃあないったら)。
「ちょっとォ、ったらちゃんと掃除してよお」
振り返ると怪訝そうにぶーたれた、利央がいた。わかってるわかってる、ちゃんとしてるってば。面倒くさそうに、わたし。
「もー、ここの階の担当俺らしかいないんだから、」
「うーん」
「ね!ちょっと聞いてる!」
「ううーん」
注意されたのにもかかわらず、モップを片手にただ突っ立っていると、ぶううん、だなんて嫌な虫の羽音が聞こえた。どちらかと言えばばちばち、という感じ。音のする方をみると、(あらら)小さな蜂のようなのがいた。厚いガラスがあるというのにそいつは一生懸命羽を動かして外へと逃げだそうとする。うわあ、と隣で利央が青い顔をした。
「…女の子じゃああるまいし。なに、利央ったらこわいの」
「こ、こわくねえよっ」
「ふうん?」
「…さされたら、どーすんの」
「平気だって。ムヒぬっときゃ治るよ」
「うそだあ!」
それから、わっ!またとんだ!と身体をびくりと跳ねさせる利央。びゅわっと私の後ろに隠れる(男の癖にだらしないぞ、こら)。
「…は、はやくどっかいけえ、」
「なあにブツブツ言ってるの。利央が静かにしてれば何もしてこないよ」
ふるふると首を振る彼に私は溜息。「…しょーがない、出してやるか」。生憎私は虫がこわいー!だとか、キモチワルイー!だとか(どこかの誰かさんと違って)そこまで乙女な人間ではないのでスタスタと例の窓に近寄る。
「ちょっと、ほんき?ありえない」
「あーほら、利央うるさいよ」
「…がんばって!」
窓の桟についた曇り気味の銀色の施錠。そこまでめいっぱい手を伸ばして開ける私(これって無駄に高い位置にあるんだよなあ)。虫がこっちにきませんよーにと祈りつつ、窓をスライドさせる。
「…あれ、開かない」
おっかしいな、錆びてるのかなこれ。がんがんと左右に動かしているのにびくともしないそれ。なんでなんでなんで。頭のこんがらがる私を小さな侵入者が襲う。ブオオオオオン。ひゃあ!。我ながら不本意な悲鳴。「なんだ、そういうこそやっぱりこえーんだろう」。利央がしてやったり、というような顔をする。
「ちがーう!今のは急にきてびっくりしただけなの」
「うそお、ひゃあって言ったよ、ひゃあって」
「利央に言われたくないです、ふん」
このまま格好つけて外に逃がそうともう一度窓を開けようとするけど、どうしても開かない。鍵のタブがちゃんと上がってなかったのかと思い、試しに外し直す。でも、だめ。頭をかかえる私のうしろで、ぶくく、と笑い声。
「…なんなの」
「あはは、、知らない?この鍵って二重になってるんだよ」
利央はなるべく虫から避けるようにして私側からさっきの施錠の脇にあるちいさな突起を上に上げた。うん、スライドできる。私がゆっくりと開けるとさああっとそれが飛び立つ。相変わらず嫌な羽音。けれど外のさわやかな風に押されて、耳音には残らない。
「っていいやつだけど、どっか抜けてるよね」
「いいの。今日はたまたまなだけ」
「わーかんないよォ?テンネンってやつだってばー」
ってそういうトコかーわいいよねー、とでれでれする彼を私は今すぐ殴ってやりたい。(虫がいなくなったからってチョーシのらないの!)。
110219修正