「リーマスー!」
こちらに駆けてくるの姿が見えたので、リーマスはちょっと立ち止まって彼女が来るのを待った。そんな彼が抱え込んでいるのは、びっくりするほどの量のチョコレートの山。にっこりと愛想良く答えてやるとが「うれしそうな顔してんな、ばか!」と言って彼の背中を景気よく叩いた。その拍子にバサバサーッとチョコレートの山が崩れる。「…今年も大量そうだね、リーマス」。呆れた顔をして、それらをが拾う。
「ありがと」
「どういたしまして。これ、全部あんたのファンの子から?」
「ファンなんて大層なものじゃないよ、みんなちょっとしたお礼だって言ってた」
「リーマス鈍すぎ。きっとその大半が本命だからね」
拾い上げたチョコレートを彼の腕の中に押し戻しながらが言う。「まさかね、ありえないよ」と笑うリーマスは本気なんだかふざけているのか分からない。ちょっと心配になる。そんな中、ピンクや黄色の可愛らしいラッピングの箱に混じってカエルチョコが一つだけ入り込んでいた。
「…こんなおめでたい日にカエルチョコとは。なかなかやるなあ」
「あ、それは食べちゃダメだよ」
「知ってるから。リーマスはチョコレートだいすきだもんね」
「そうじゃなくて。…これ、あとでスネイプに仕掛ける悪戯おかしなんだ」
え。が青い顔をして、手に持っていた例のカエルチョコを落としそうになる。「落とさないで!」。そんなリーマスの声を聞いたはあわてて両手でキャッチした。危なかった。思わず安堵の溜息が出る。
「セーフ…!普段のろいあたしでも、反射神経はあったみたい、」
興奮気味のが、今度はそうっと彼のところにチョコレートを戻す。もう何もいじったりはしない。何かろくでもないものが混じっていそうだからだ。それからリーマスは悪戯用のそれが無事であるか再度確認して、「それはよかったね」とジョークに答えてみせた。鳶色の髪がふわりと揺れる。
「でもほんとに落ちなくて良かったよ、だってこれの中身はカエルチョコじゃなくて糞爆弾なんだから」
「…それってほんき?ありえない」
「本気なんじゃないかな。ほら、発案者はジェームズだから」
「なるほど、それじゃあ本気だな、あいつ」
腕を組んでうんうんと首を振る彼女。心なしか仁王立ちをしているようにも見える。もういつもの癖みたいなものだからいいか、とリーマスはあえて触れないことにした。それにしてもチョコレートの香りがひどい。においだけでも満腹になりそうだとは思った。改めて、それらをまじまじと見つめる。
「…ほんと、すごい量」
「またそれかい、。運ぶのは大変だけど、これで当分は甘い物には困らないよ」
「そういうもんなのかね…あ、そういえば今朝のシリウス見た?紙袋持って張り切ってたよ」
「…シリウスが?彼ってたしか甘いものダメなんじゃなかったっけ」
「うん。おっかしーな、って思って聞いたらね、あいつなんて言ったと思う?金目の物だけ貰うんだよって」
「シリウスらしいっちゃあらしいけど。ひどい話だね」
まったくもって同感するわ、と。嫌そうな顔をしていたけれど、ちょうどルームメイトの子とすれ違ったらしく「チャオ、アリス。これからがんばりなよ」と作り笑いしてみせた。それから、隣のリーマスにこそこそっと小声で話す。
「…あの子、これからシリウスにチョコレート渡しに行くんだ」
「チョコレート?、君さっきシリウスは金目の物以外は貰わないって、」
「言ったけど」
「…まさか知ってて…!」
「シーッ!声が大きい、聞こえるってば」
そう指摘されて、リーマスが声のトーンを下げた小さな声で謝る。の一度伏せた目がいきなり彼女の友達の方へ動いたので、つられて彼もそちらを見た。視線の先にはだらだらと歩くシリウスと、それを影から見守るルームメイトの姿。
「かわいそうだから邪魔者は退散しようか」
「…君もそれくらい分かるんだね、僕は安心したよ」
「あ!リーマスもそう言うこというのか、このやろ!」
「ちょ、ってばいたいよ!またチョコレート落ちちゃうし…!」
再び床に散らばったそれらを2人でかき集める。の目の前にはさっきのカエルチョコがあったが、決してそれを拾おうとはしない。見ないふりをして、どんどん遠くの方へと手を伸ばす。不意にリーマスが口を開いた。「ねえ」。
「ん。なに?」
「はこういうイベント嫌いなの?甘い匂いしてこないけど」
「そりゃあここまで甘いにおいがプンプンしてたら分からないでしょうよ」
「うーん」
納得のいく答えを貰えなかったらしく、珍しく首をひねるリーマス。そんな隣では平然に「よいしょ」と立ち上がる。彼の荷物を抱えて。すらりと伸びた足が見える。同じく立ち上がろうとするリーマスにが手をさしのべてやる。しょうがないなあ。そう言わんばかりの顔。
「…ほら。…談話室でお茶会でもしよう?リリーがショコラケーキ焼いてくれたんだ」
「それはよだれが出るほど楽しみだね」
「でしょ」
「は僕にチョコレートくれないのかい」
「あたし料理だめなの。だからこれでがまんしろ」
「じゃあキスをちょうだい」
「それはだーめ!」