「ねえ、セブルスくんてあの赤い子がすきなの?」
よく通るアルト声。自分には彼女の言う赤い子、というのが誰のことを差しているのかよく分かったから、思わずびくりとした。
「当たりでしょ」。
僕の視線の先、窓の桟に本をひろげながら腰掛けているがにやりとする。それがわざと意地の悪い顔をしているのだと人目で分かったので、またタチの悪い冗談かと聞かぬふりをした。否定をしても肯定しても彼女は面倒だとなんとなくそういう気がしたからだ。
「…ちょっと、女の子に対して無視はひどいんじゃないの」
「うるさい。僕は今調べ物で忙しいんだ、放っておいてくれよ」
「そのわりには手が動いてないよ」
とんとん、と本のページを叩く。つづいて「あの子のこと考えてたんでしょ」だなんてとんでもないことを言う。ふいと彼女が向いた方では、エヴァンスが友達と楽しそうにしていた(もちろんポッターはいない)。金色の中でひときわ目立つ赤い髪。
「セブルスくんてかわいいね」
くすくすとわらう。僕の目線はエヴァンスにも、にも向けない。ただ本に綴られている文章を追っているだけだ。だからもういいだろう、何も言わないでくれよ。どうせお前も僕のことを面白がってるだけなんだろ。
わざと冷たくあしらってやったのに、彼女のダメージはほぼ無いに等しいようだった。あいかわらず、下がることのない口の端にいらいらする。「なに、また無視?」。が言う。しょうがなく僕は口を開いた。
「意味不明すぎる。そして、気安くファーストネームで呼ばないでもらいたい」
「あれ、あたしの名前知っててくれてたの。うれしいや」
「お前の言動は目立つからな。さあ、もういいだろ、話しかけないでくれ」
「じゃあ話しかけない。だから観察させて」
そういう意味で言ったわけじゃない。なんでこいつはここまで僕に構うんだ理解できないと頭の中で彼女を罵る。