午後の談話室はほどよく暖かくて、だけど暖炉のきらきらと燃える火がちょっとうっとおしい。そんな気だるい空間。なんだかやるせなくなって、私は本を閉じた。まだ読みかけの本だったけど、あえてしおりは挟まなかった。…小説のラストが見え見えになってきたからだ。
ああ、なんだか眠たいな。
別に起きている理由もなかったので、そのままソファにもたれかかる。自分の身体をささえることさえ億劫になり、私は横になった。ここちよいソファの肌触り。
「おいおい、恋人を放ってお前はひとり昼寝かよ?」
私と同じように本を投げ出したシリウスがちょっとからかうように言う。「別に私と君は付き合ってなんかないよ」とぶっきらぼうに言うと彼が肩をくすめた。形のよい口先が、少し右につりあがる。
「つれないやつだな、」
「なんとでも言えばいいよ。君に近づくとろくなことがないもの」
「まあそういうなって。俺ならたっぷりいい夢見させてやるけど?」
結構。そう言ったはずなのになんでこいつは近づいてくるのだろう。正直ちょっとうっとおしい。まさか私相手に盛ってくるとは思わないけれど、本当にやめてほしいのが実際のところ、だ。何しろ奴に捕まって喰われた女子生徒が何十人いることか。そんな中に自分も入るだなんて吐き気がする。
そんな私の考えとは裏腹に、シリウスが覆い被さってきた。
「ねえ、重たいんだけど。どく気は?」
「ないな、残念ながら。キスさせろよ」
「やだよ」
より密着してくる身体に身をよじりながら、シリウスの口を手で遮る。そんな当たり前のことのように言わないでくれる?少々私は機嫌が悪いのだから。
それからもう一度「いやだね」と言ってやると彼が「なんでだよ?」と言いながら首を傾げた。その表情を見れば、手に取るように分かる。私が拒絶するだなんて考えて無かったみたいだ。
「さっき、ハッフルパフの子とキスしてたでしょ。そんなのと一緒にされたら困るね」
「いーんだよ別に、本気じゃないんだから。…本気なのはだけ。知ってたか?」
「嘘つきは嫌いなの」
「俺が信じらんねえわけ?愛が足りないぞお前」
そう言ってシリウスがぬっとりと私の、奴の口をふさいでいた手の平を舐めた。生暖かい下の感覚に思わず手をひっこめてしまう。ああ、これでは相手の思うツボだ。そう思ったあとすぐに、彼の口づけが私の唇に__ではなく、額にされた。ちゅっと音を立てたのはきっとわざと。
「…期待してたか?」
「まさか。そういうところが嫌いだよ」
「俺はのそんな冷たいところがいい、ぐちゃぐちゃにしてやりたくなる」